「お母さんが読んであげる物語」のこと

物語の絵を描きたいという気持ちの、たぶん原点になっているものがあります。

幼い頃に母が、婦人雑誌のなかの「お母さんが読んであげる物語」というようなページを切り取っては
無造作に洗濯バサミで留めて薄い束になっていたのを、ときどき読んでくれた。
絵本のようなしつらえではなくて大人用の記事と同じく細かい字。
まさにお母さんが読んであげるためのもの。
そこに添えられたほんのいくつかの絵が、なんとも美しくて、
耳から入ってくる物語とちょうどよく響き合って、夢のような心地になったことを覚えている。

言葉と上手く響き合う絵を描きたい…そう思う時に、いつも思い出されるのがこの記憶でした。
この束はどこへ行ってしまったのか。
母が「暮しの手帖」から切り取ったと話していたのを聞いて検索したりもしたのですが、
ズバリ該当するものがなくて(暮しの手帖はまた別のお母さんが読んで聞かせる物語があります)、
ああ、あれは幻だったのか。

それが昨年、母が「ねえ、これ、覚えてる?出てきたのよ。」と、束が。

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これです!再会!嬉しい!

A4サイズで3ページほどの物語。そこに挿絵画家さんたちの2色刷りの挿絵が。
我が家の束は読み切り物語12話分。
物語は立原えりかさん、上崎美恵子さん。
絵はいわさきちひろさん、長新太さん、渡辺藤一さん。

物語は、すこし不思議なものが多い。そして静かなものが多い。決してハッピーエンドばかりでもない。
『雲のスリッパ』ではスリッパ作りの上手なおじいさんのもとに妖精がやってきてその世界へ行って
雲でスリッパをつくることになる、とか。
読み返して驚いたのは、この羽のように軽いスリッパの感触を思い出したこと。
小さな子どもだった私は、これらの物語を聞きながら、匂い、肌触り、風、そんなものを想像し体感していたらしく、
こんなにも大人になった今でも読み返すと同じ感覚がよみがえってくる。


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中でも長年ずっと気になっていたのが『星のたまごを番する子ども』。
天の世界で、星になるはずのたまごを番していた子どもがそのたまごを地上に落としてしまった。
それを探しにきた子ども。
立原えりかさんの言葉、リズムは子どもに伝わる美しさ。
無駄がなく、優しく、心にきらめきをのこしてくれる。
渡辺藤一さんの絵は単色なのにやはりキラキラしている。
いくらでもその絵の奥へ旅することができそうな。私はこの絵が大好きだった。
物語は忘れてしまっていても、そのキラキラとした空気感だけは忘れられなかった。

切り抜きの裏面には別の記事があって、今回そんなのも読み返してみたら、
これはどうやら『家庭画報』の連載だったようです。
洗濯バサミを卒業し、ファイリングして、今は息子に夜読んで聞かせています。
「読んで読んで。」というので、息子も好きなのかしら。
お母さんが読んであげられる年齢の時に見つかって、良かったな。
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